17『東京バンドワゴン』 小路幸也

明治中期からある「東京バンドワゴン」という変わった名前の古本屋。
営む堀尾家は4世代8人家族。
3代目・江戸っ子気質で頑固一徹の勘一。
その息子で「伝説のロッカー」と呼ばれるミュージシャン我南人。
さらにその息子で大学講師を辞めフリーの物書きをしている紺と、愛人の間に生まれた端正な顔立ちで女性問題が絶え間ない青。
そしてシングルマザーとして子育てをする娘の藍子と小学生の花陽。
家の中には2代目が残した「格言」が(「文化文明に関する些事諸問題なら如何なる事でも万時解決」など)いたる所に貼られ、家族はそれを極力守るのが義務とだったりする変わった家庭。
この大家族に毎度ふりかかる「大問題」を、死んで霊になった勘一の妻・チヨ
の「幽霊目線」から語られていくお話。




「キナ臭い本」というのが正直な印象だ。
明治時代なのにバンドワゴンという店名だったり、父親が伝説のロッカーだったりと
非常にキャッチな設定ばかりが目につく。その上に昔懐かしい予定調和の「家族ドラマ」をかぶせてあるのも妙に新しさを演出している狙いを感じる。
この作品、読みやすいということで評判のようだがそれもそのはずだ。
ここには「小説」ではなく、「あらすじ」が書かれている。人物描写が浅く、話もさほどの展開を見せない。
そして無駄に「愛」をとく。愛ですべてを解決しようとする安直さ。
誰にでも読みやすく分かりやすいが、反面登場人物の姿が何の記憶にも残らない。
文章のリズムやテンポが掴みにくく、読んでいるとまるでその辺の面白くない人の話を聞いている錯覚を覚える。
この作者は元広告代理店勤務という。広告のようなキャッチな内容で客を掴み、
分かりやすさ簡単さを求めるという方法論がそのまま小説に反映されているのかも知れない。
例えると、「旨い」といわれているラーメン屋に入って注文したら、味の濃いカップ麺に具を乗せたやつができてきたみたいな。その店にはカップ麺を「ウマいウマい」っていって食べる客が多い・・・そんな感じである。
「料理を食わせてくれる」ラーメン屋でカップ麺を出すことに疑いがない時点で不思議であるが、意外とカップ麺の方がいい、というのが「今」なのかも知れない。