1「オーデュボンの祈り」伊坂幸太郎


これは凄い。自分の想像力を超えたところで話が展開している!
まるで神話を読んでいるような錯覚に陥ったしまう程、多くのメタファーが散りばめられた作品。

あらすじは
強盗を犯した主人公(伊藤)は、気がついたら見知らぬ島にいた。
そこは江戸時代から、交流をたったまさに無名・孤立の島だった。

伊藤が出会うのはさまざまな強烈な「おかしな人々」
嘘しか言わない狂った画家「園山」、肥りすぎてそこから動けないで生活している女性「うさぎ」、
まるで犬のように愚直に動き回る「日比野」
圧巻なのが、喋るだけでなく未来を知ることができるかかしの「優午」だ。
彼は言う「島から出てはいけません」と。

もうひとつ魅力的な人物がいる。何らかの罪を持った人間を殺害することを皆に許されている男「桜」だ。
詩と花を愛する寡黙で、表情に乏しいが美しい男。
昔、インドのプシュカルという街でこの「桜」のような男を観た事がある。
まるで彫刻品を観ているような端正な顔。真ん中で分けて肩まで伸びた光り輝く黒髪。
西洋人との混血から生み出されたのだろうか、潤う大きな黒い瞳とすらっと伸びた高い鼻。
この男は、タブラを叩いていた。彼が生み出すリズムに誘われ、周りには多くの西洋人がいた。
まるで神を崇める群衆のように。
そう、彼に言葉は無力だった。その容姿、そして奏でる音楽だけで生きていける存在な気がした。
旅をしていた私はその神々しい存在に己の〈人間的な〉くだらさなを恥じた記憶がある。

通常だと「美しく理解不能な(ミステリアスな)キャラクター」は女性のケースが多いのだが、
伊坂作品は男性が多い。
以前映画監督の岩井俊二が映画「花とアリス」の中で「今の女の子は色香がない。男の方がむしろ色っぽい」
と語っていたことを思い出す。


加えて強盗伊藤を追う警察官「城山」の存在が大きい。
この男が表現するのは、まさに「悪意」そのものである。彼の犯した行動は活字ですら鳥肌を立たせる。
「美しいものを汚すことに快感を覚える」この男は
狂っていないが上に、何よりも恐ろしくどうしようもなく強い。
昔院生時代に「いかにして人間性を踏みにじるか」について思考を巡らしていた友人がいたが
まさに、それを現実社会で快楽として実行しているのがこの城山という男だ。
現代にはびこる「人間性を踏みにじる究極の悪」を体現しているのが城山である。

出ようと思えば出れるのに島からでない人々。
未来が見えても現状を変えることができないカカシ。
地を這う蟻よりも、他の生物を補職しながら生きる価値のある人間がいかにいるかを問いかける男。
人が亡くなる前に、ただただあの世に行くモノの手を握る女。
この島には「何かが欠如している」ことを島民がみな知っているのに、知らないふりをしていること。
等々

何度繰り返して読んでも、作者が込めた現代社会へのメタファーが心に刺さる。(実際3回も読んでしまった!)
これがデビュー作というのだから、すごい。
これはおススメです。

【評価 各5点満点】
ストーリー5 人物描写4  文章力3  オリジナリティ5  その他5 
27/30