20『砂漠』 井坂幸太郎2008実業之日本社

皆が過ごしている何気ない日常を描くときほど、作家の技術が問われるのかも知れない。

SFのように作者が持っている唯一無二の世界は、
それ自体が完成されたオリジナリティであるからまんまで成立する。
読者にとってはその世界が「好き」か「嫌い」かなのだ。

しかし、現実に生きる人々が過ごした・経験した時間を描く場合、
各人がそこで過ごした「思い出」を持っている。その時間・空気を改めて描くことは、
やはり作家の力量が問われる。

前置きが長くなったが、この小説に描かれている5人の大学生の人物描写、
キャラクター配置・その人物の絡みが実に素晴らしいのだ。

井坂作品で好きな作品は多くあるが、これほど人物描写が旨い作品は他にはないのではないか。
『オーデュボンの祈り』で鮮烈なデビューを飾ってから、
職業作家として時を過ごしてきた著者の、
物書きとしての円熟具合が伺えると一冊いっても過言ではないだろう。

さらにその力量で描くテーマが、
「これ」であった部分が著者らしく好きだ。
最後には、著者お得意のトリックで読者に罠を仕掛けているのも、
絶妙の筆さばきである。
読み終えた後、
THE YELLOW MONKEYの『SO YOUNG』がどこからともなく流れてきたような気がした。
いい作品だ。
「あの同じ時」を共に過ごした仲間達に是非読んで欲しい。
内容は読んでからのお楽しみ。