55『北京原人 who are you』(1997・日本)

【スタッフ】
監督:佐藤純彌敦煌』『新幹線大爆破
脚本:早坂暁千年の恋 ひかる源氏物語』『日本一の裏切り男
撮影:浜田 毅マークスの山 おくりびと
特撮:佛田 洋『デビルマン』『ハッピーフライト
美術:小澤秀高
音楽:長谷部徹 『愛の流刑地』『20世紀少年

【キャスト】
佐倉竜彦:緒形直人 『深紅』『東京兄妹』
竹井桃子:片岡礼子 『ハッシュ!』『帰郷』
美々:ジョイ・ウォン『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』『シティーハンター
大曾根:丹波哲郎二百三高地』『007は二度死ぬ
轟博士:佐藤蛾次郎 『男はつらいよ』『極道はクリスチャン 修羅の抗争』
志村大尉:哀川翔ゼブラーマン』『DEAD OR ALIVE
北京原人・フジタカシ:本田博太郎それでもボクはやってない』『半落ち
北京原人・ヤマトハナコ:小松みゆき 『DEATH NOTE』『亡国のイージス
引田天功?:引田天功

【あらすじ】
第二次世界大戦中に焼失した北京原人の骨を、2001年日本の生命科学研究所が東シナ海から回収。骨からDNAを採取し、北京原人を再生させるというビックプロジェクトが始動する。
所長の大曾根の元、研究員・佐倉や竹井の活躍で宇宙空間での実験の結果、50万年前の時を経て蘇った3人の原人。
原人たちのその驚くべき秘めた能力を世界に公開することで、潤沢な研究資金を手に入れさらなる研究に挑むという野心を持つ研究所はある秘策を考えていた。
一方、原人の存在を嗅ぎつけたアメリカや中国やそれぞれに原人の権利を主張。国際問題に発展していく。
原人をめぐる大きな陰謀が渦巻く中、佐倉や竹井は原人たちと少しずつ心の交流を図るようになる・・・。

【感想】(ネタばれを含みます)
この世には人類がいかに思考を巡らしても、今だ解けない根源的な謎がある。
「ビックバンが生まれる以前、そこには何があったのか?」
「人が死んだら、その魂はどこにいくのか?」
「神は存在するのか?」 などなどである。
これらの問題と同様であるのがこの映画だ。
すなわち、20億円という巨額の予算を投じ、監督の佐藤純彌や脚本の早坂暁などの
経歴輝かしいスタッフ達が集い、緒形直人丹波哲郎などの実力ある役者を配し
台湾の大女優・ジョイ・ウォンまでも参加させたにも関わらず・・・
「何故、こんな作品が出来上がってしまうのか?」ということである。

まずこの脚本は、他の追従をまったく許さないほどに、ひどい。(あるいはこれは狙いか?)
この本を渡された役者陣はどのような思いで、セリフを入れたのだろう。
想像するだけで彼らが不憫でならない。
それでも皆で一生懸命映像化したのだろうが、やはり多くの問題は消えなかった。
北京原人を再生させるのはいいが、蘇生させたら胎児が生まれるのでは?そまた何故3人も必要なのか?(あれは親子なの?)そして何故宇宙だったのか?
・原人は魚を呼び寄せるような超能力を使えるのは何故?あと終盤戦、歩き方も「普通の人間」と同じようになっていたが、あれは一体?
・原人に初めてコンタクトを取る時に、唐突に「(原人と人が)同じ生き物であることを分からせるんだ!」と緒形直人がいい放ち、片岡礼子と一緒に脱ぎだしてしまうのだが、ここはそういう問題なのだろうか?無駄に脱がされて、片岡礼子がかわいそうだ。
・原人の身を拘束する時に、緒形直人が「睡眠銃は使いません!」と必死の形相で叫ぶのだが、催涙スプレーだったらいいのか?その理屈とは?
・動物園の象じゃないんだから、国家機密の原人の名称が「たかし」「はなこ」というのは・・・
・DNAから蘇生させるのであれば、生まれた当時は子供のはず。それで当然、以前の記憶がないはずなのに、ライオンにおびえるのは何故?
丹波哲郎の命令で片岡礼子は「科学者」として無理やり北京原人の子供を宿されようとする。
(これも相当問題だが)それに抵抗する礼子が、丹波に放った一言が「彼を愛してもいないのにですか・・・」あなたは原人を愛していれば、この状況でセックスするのか?
・「原人の能力を世界に知らしめる」お披露目の舞台が、何故「関東実業団陸上大会」だったのか?あまりにも「ローカル地域」で、しかも「陸上」というその想像力には誰もついていけなかったはずだ。
・陸上選手用のユニフォームを着ている原人は、誰がどう見ても「おかしい!」。
人間ではないということは一目で分かる。にも関わらず、原人情報をつかんだ新聞社の連中が、その姿を見て「あの17番。ちょっと様子がおかしいですね」などという話にはならないと思うのだが・・・
・実験で50万年前の原人記憶をよみがえらせようとしていたが、DNAにはそんな情報は存在しないはず。しかも「現代の記憶」からいきなり、50万年前の記憶が出てくるのはおかしい。
・中盤戦以降の実験などで衰弱したハナコを目の前にして緒形直人が真剣な顔で
北京原人が現代で生きるのは無理だったんだ!」と一言。それは科学者なら、はじめから分かっていたはずでは・・・。
・原人はマンモスともコンタクトがとれるのか?マンモスはどこでも歩いていけるのか?
・原人が赤い山に向かってマンモスと歩いていくとき、緒形直人が彼らに向かって「自由になれー!」と叫んでいた。一体何から?
・「ウパーッ」て・・・

人間描写、SF世界の構築、科学技術の現状など物語の主を構成している部分が、すべて雑で、いい加減で、そして理解不能である。だから感動的な音楽でリードされても笑いしか誘わないし、緒形直人らが迫真の演技を見せても、腹を抱えながらただ不憫に思うだけなのである。
完成後、これを劇場で有料で流そうという英断を下した連中も凄い。
その結果、どれだけ多くの関係者が深い後悔の念と悪夢にうなされ、観客側には恐ろしいまでの敵意と殺意が生まれたのだろうか。一部の間の人々から熱狂的な支持を受けたのが、せめてもの救いだろう。(関係者は早く忘れたいだろうが)

このような作品が世に生まれるなんて、やはり世界には未知な部分が多い。

【総評】☆5STARS☆ (各項目5点満点で計30点)
脚本
演出
役者★★★
撮影★
美術★
音楽
「映画って何だろう・・・」