29『TSUNAMI』 バハラット・ナルルーリ監督
舞台:スマトラ島 タイランド
脚本:アビ・モーガン
音楽:アレックス・ヘッフェス
キャスト:ティム・ロス
キウェテル・イジョフォー
ソフィー・オコネドー
トニ・コレット
ウィル・ユン・リー
2004年、24万人という未曾有の犠牲者を出したスマトラ沖の大地震及びインド洋津波。
多くの犠牲を出した自然災害という巨大なテーマに対して、
その時現場に居合わせた人たちは、この災害によってどんな運命を背負ってしまったのか
という群像劇から今回の災害を描き出した3時間を超える意欲作。
人は他人を襲った不幸に対して、どれだけ感情移入できるのだろう?
テレビや新聞では伝わらないことが、物語化することで相手の心に響くことがある。
今回の作品は、その類のものである。
妻がダイビングに出ている時、津波は夫の手から娘を奪ってしまった。
妻は夫が手を放したことを非常なまで責め、夫は全身全霊で娘を見つけようとするイギリス人夫婦。
津波で夫を亡くし、上の息子も緊急帰国しなければ怪我の悪化で足を失ってしまう。
災害ですべてを失い、一人取り残された異国で頼れるのはイギリス政府だけ。
しかし、あまりの対応の遅さに絶望的になる女性。
「欧米人の死者の数を報告せよ」という任務のために、現地に走ったイギリス人とタイ人のジャーナリスト。目にしたのは寺院で行われていた死者の火葬。肉体に魂はなく、また感染病予防のためと死体を焼く僧侶に対し、身元確認もせずに火葬するのは、大問題だと騒ぎ立てるイギリス人記者。
取材を進めるうちに2人は、今回の地震が以前から予知できたことを突き止める。
その情報を隠ぺいしたのは政府であることも。
観光客にとっては格好のリゾート地で、
先祖伝来の土地に祖母とつつましく暮らす信仰深いタイ人の青年。
津波で亡くなった祖母を供養し、取り残された人々を救出しようと奮闘している時に、窃盗の容疑で逮捕される。
釈放後、戻った自分の故郷では、混沌を機と見たホテルリゾートの輩が政府とグルで
住民から強制的に土地を奪っていた・・・。
被害にあったリゾートホテルの開発部で勤務するイギリス人女性。
タイの経済成長のためには、リゾート開発が最重要と唱え
災害ですべてが更地になったのをいいことに、政府から土地を破格で買収。
被害で苦しむ人を横目に、より大規模のリゾート開発を進めていく。
このように、人種、文化、南北問題なども複雑に入り組んだ十人十色のドラマがしっかりとこの作品で描かれているのは高い評価を得られると思う。
また、災害後の様子を作り込んだ美術セットも一見の価値がある。
また、タイ人青年を演じたウィル・ユン・リーという俳優を知りえたのも大きかった。
娯楽作品というジャンルではないが、その作品にかけたスタッフの気持ちがひしひしと伝わってくる良作である。
最後に、この災害で被災された方々に心よりのご冥福を申し上げる。
【総評】☆20STARS☆
脚本★★★
演出★★★
役者★★★★
撮影★★★
美術★★★★
音楽★★★
(各項目5点満点で計30点)
それでも、やっぱり映画が好きです。