12 「ララピポ」奥田英朗 (幻冬舎2008/8)


「この人たちはどうしているのかなー。
ふとそんなことを思った。
世の中には成功経験のない人間がいる。
何かを達成したこともなければ、人からうらやましがられたこともない。
才能はなく、容姿には恵まれず、自慢出来るものは何もない。
それでも人生は続く。
この不公平に、みんなどうやって耐えているのだろう・・・」

ここまで救いのない作品はそうない。
まるで存在しなかったかのように、ただただ空気のように生きているダメな人間達が、
努力するもすることなく、性欲、金銭に正直な位振り回され、駄目になっていく。
まさに下流文学の金字塔といえるかも知れない。

これを読んでいて
昔一世を風靡した(?)「ダメ連」の「灰色戦線」というイベントのキャッチコピー
「俺の芸術には、才能がない。見向きもされない。努力もしない。」を思い出した。

有名大学を出てプライドは人一倍高いが、人付き合いが苦手。
隣から漏れる喘ぎ声でオナニーするのが生きがいの、デブでモテナイ低所得のフリーライター

若者からおばさんまで、風俗に女性を送り込むためなら、誰とでも寝て仕事を取るキャッチの青年。

家はごみ屋敷。家族の死体まで部屋に放置したまま。スーパーでAVにスカウトされ、企画ものに出演。狂ったように性の盛りがついた中年主婦。

カラオケボックスでなけなしの金を稼ぐも、人にイヤといえず多くの勧誘に引っ掛かり、
しまいには売春の斡旋に手を染めてしまうひ弱な青年。

初めは純文学を志すも、今はポルノ小説家として成功。
妻に軽く見られ、世間からは小説家として認知されず、空虚感ただよう毎日。
そんな中、女子高生との援助交際でのみ、生きている実感を感じる、禿デブ中年作家。

ブスでデブ、幼い頃から男に見向きもされなかった。それを逆手にとって、自宅に冴えない男達を連れ込んで、セックスした映像を「ブス女とブ男シリーズ」として裏DVDとして販売し小銭を稼いでいる若い女
そんな、ほんとに「終わっている」人々のオンパレードなのである。

彼らは、当然現状を変える為に、努力したり、闘ったりはしない。
慣れて諦めてしまうのだ。これだから、もちろん救いなんかあるはずがない。
彼らには、神話の時代から語り継がれてきた「努力すれば、必ず夢はかなう」という類の
「物語」はまったく効力を持たないのだ。

しかも、彼らは見えない一本の線でつながっていることに気づく時
読者は得体の知れない恐怖を感じるだろう。
「その線は、もしや自分までつながっているのではないだろうか」と・・・。

恐ろしい、恐ろしい。私も「ララピポ」にならないようにしなきゃ・・・。