19『おくりびと』 滝田洋二郎監督


脚本:小山薫堂
キャスト:本木雅弘 広末涼子 山崎努 余貴美子 吉行和子 峰岸徹
音楽:久石譲
美術:小川富美夫
照明:高屋齋
録音:小野寺修


「死」とは一体何なのか?
人間が生きる上で必ずぶつかる宿命的なこのテーマを
時に面白可笑しく、そして優しく丁寧に、
美しい映像と共に見る側の心にじっくり語りかけてくる良作。

あらすじは・・・
小林大悟(本木雅弘)は、やっとつかんだチェロ奏者の仕事をたった一度で失い、残ったのは1800万という楽器の借金だけ。
音楽で食べていく道を諦めて、山形・庄内の実家に妻・美香(広末涼子)と2人で暮らすようになる。
とりあえず仕事を探す中、新聞で見つけたのは「旅のお手伝い」という求人広告。
面接は即採用。給料も月額50万スタート。
しかしながら、その仕事が「納棺師」だとは夢にも思わなかった。
楽器の借金の件もあり、社長(山崎努)に押し切られる形でこの仕事を始めることになるのだが・・・

(以下ネタばれ内容を含みます)

一言でいえば、実に素晴らしい作品だ。

舞台になる山形の庄内地方酒田市
この地に残る懐かしくも温かい日本の町並みや、雄大な自然、そして
その土地独特の言葉が、脈々と続く「死を送る」というテーマを身近に感じさせてくれる。
同時に、これらのロケーションは、絶えず、登場人物達の心情を代弁してくれている。

大悟の納棺士として生きていくことへの挫折、そして目覚め。
この仕事を妻に言いだせない大悟の葛藤。
夫の今の仕事を知り、それに対する嫌悪や偏見が拭えない妻がやがて夫の仕事を理解する変節。

これらを登場人物は多くを語らず、心情描写を映像を通して見せてあげる、そんな映画の醍醐味を味わうことができる。


役者も素晴らしい。
例えば主人公の本木雅弘が、真剣な眼差しで納棺の儀を行っているシーン。
彼のその美しい顔筋から、儀式自体が神々しくも華麗である印象を強く受ける。
元チェロリストという繊細な感性を持つ男が、死体の乱れを直し化粧施す姿からは
「死者を彩る」という言葉が容易に連想されるよう。
加えて、彼自身が心の中で考えている内容も連想させてくれるから素晴らしい。

妻の広末涼子も、その透けるような白い肌が寒さでうっすらと赤く染まる表情は
雪国の庄内に美しく健気に映える。まるで彼女の置かれた立場を代弁するかのように。

社長役の山崎努
彼の演技力は群を抜いて卓越している。
明らかにアウトロー、隙間産業で財を成した風がある男。
しかし、実際には愛する妻を納棺したことが、この仕事についたきっかけで
誰よりも、「人間が生きることの意味」を悟っている一面をもつ男。
この2面性を、まるで人をたぶらかす狸のように演じ分けている。

彼らがつむぎ出す物語は、基本は苦しい。
大切な人を失い、残された家族の悲痛な姿を多く見ていると
観客は、かつて自分が経験した不幸を重ね合わせて
別れの辛さで胸が張り裂けそうになる。

だが、果たして死とは、暗く不幸で悲しいものなのだろうか?という問いかけが
この映画の深みである。

死者を彩る納棺師の姿、
亡くなって初めて気づいたこと、
火葬場で数多くの遺体を焼いてきた男のつぶやき、
失踪した父親が最後に息子に残したモノ・・・
それらをつなぎ合わせていった時に、「死」は新たな解釈を帯びてくるのだ。

「生きているうちに精一杯生きよう」だとか
「死んだらすべて終わり」だとかいう空間を超えたところに存在する
「何か」をこの作品は見せてくれる気がする。


ちなみにこの作品は、主演の本木氏が、藤原新也氏の傑作「メメント・モリ」という
写真集を読んで「これを映画にしたい」というのが、発端だったそうだ。
両者を見比べてみるのも面白いと思う。

【評価 各項目5点満点】 
演出4 役者4 撮影4 美術4 音楽4 脚本5 

合計 25/30 

やっぱり映画が好きです。