7『荒野へ』ジョン・クラカワー

公開中の映画「into the wild」の原作である。
(概要は、映画レヴューを参照頂きたい)

「何故クリスマッカンドレスはあのような旅に出て、
そして何故死んだのか?」

この謎に対し、家族や関係者などから十分な取材し、
クリスの旅の軌跡を実際に追い、彼が残した手紙などの遺品・痕跡の意味を丁寧に探りながら書かれたルポルタージュ作品だ。

読んで驚きなのは、クリスが死体で見つかった90年代初頭当時、アメリカでは「無謀な旅」(と社会は判断した)をしたこの若者に対して、猛烈なバッシングがあったということだ。
これは、数年前イラクで拉致された日本人に対して「自己責任論」が展開され
猛烈なバッシングがあったことを容易に思い出させる。

アメリカ社会から不当な名誉棄損を受けている故人に対して、著者はジーン・ロッセリーニやジョン・ロマン・マロン・ウォーターマン、カール・マッカンなどの旅人達を引き合いに出して、クリスの旅が決してエディプスコンプレックスや無知無謀の狂人的行為ではないことを本作で明らかにし、故人の旅の行為が持つ意味を逆にアメリカ社会に投げかけている。

映画では描かれなかった、クリスの両親が息子が最後を迎えたバスを訪れる場面もあり、家族側からの「もう一つの旅の終わり」も描かれている。

この作品を読んで感銘を受けたショーン・ペンは、友人たちにこの本を送ったという。

「10年前にこの作品に出会っていたら、もしかしたら自分はここにはいないかも知れない」、そんなことを読み終えて考えた。

【評価 各5点満点】
ストーリー3 人物描写4 文章力4 オリジナリティ4
その他(取材力)4 合計19/25

本編に多く登場する引用文の中で私はこれが気に入った。


結局、創造的才能にとって病的なほど極端に走るのは悪い習慣かもしれない。
それは非凡な自己洞察をもたらすけれども、心の傷を魅力的な芸術や思想に表わせない者たちには、長続きする生き方ではない。
セオドア・ロウスザック「驚異の探究」