6『グラスホッパー』伊坂幸太郎

読み出し数行で、異常な世界での展開の早さと緊張感に圧倒される。
もしもこんなシチュエーションだったら面白いのでは・・・という漫画的な発想から書かれたような印象の一冊。

教師をしていた鈴木は、妻を無惨な交通事故でひき殺された。
犯人はドイツ語で「令嬢」を意味するフロイラインという会社の社長放蕩息子・寺原。
罰を受けず生を享受するこの男に復讐する為に、この会社に入社した鈴木だったが
幹部の比与子に復讐目的であることを疑われ、身の潔白を証明するためには、拉致した若者を殺せと命令されてしまう。
鈴木の葛藤をよそに、様子を見に来た仇の寺原が目の前で車にはねられ死亡。
それは「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕事だった。
一転して、押し屋を追うはめになった鈴木だが・・・

殺し屋達の挽歌という感じだろうか。
登場する殺し屋は「蝉」「鯨」「槿」「スズメバチ」と個性的なコードネーム。
しかも、ナイフ使い、押し屋、自殺屋、毒使いと特技もバラエティに富む。
何故、こんな職業になったかの説明は一切なく、彼ら視点から見る世界が
異様に明るく歪んでそれで圧倒的にリアルに感じる。

物語の展開は、作者らしい群像劇が一本繊に集まる「伊坂パターン」を辿っている。
ガイリッチー監督の「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(1998年英)を小説で読んでる感じ。

タイトルのグラスホッパー=バッタは「人が過密して生活するとバッタと同じように凶暴化する」というテーマのもとに名付けられているのだろうが、実際にはそこまで強いメッセージ性は感じなれない。
上記の映画のように、「面白かったけど、心に何も残らない」感じの作品だった。

また妻の回想がたびたびあるが、そのキャラクター(性格)が分かりやすく、
立体的な人物像が見えてこないのが残念。

残酷なまでにクールに人間を見つめる作家の厳しい視線から語られる
人間の存在意義はそれなりに説得力はあるのだが、いかんせん殺し屋、悪人ばかりが対象だと
どうもその力も半減してしまう感じがした。

【評価 各5点満点】

ストーリー3.5 人物描写3 文章力4 オリジナリティ4 その他(スピード感)3.5 合計18/30