52『ガタカ(Gattaca)』アンドリュー・ニコル監督


1998年 アメリカ製作 
【スタッフ】
脚本・監督:アンドリュー・ニコルトゥルーマン・ショー』(脚本)『ロード・オブ・ウォー
撮影:スワヴォミール・イジャック『トリコロール/青の愛』『ブラックホーク・ダウン
音楽:マイケル・ナイマンピアノ・レッスン』『ことの終わり』
編集:リサ・ゼノ・チャーギン『デッドマン・ウォーキング』 『砂と霧の家
美術:ヤン・ロールフス『アレキサンダー』『ベイビー・オブ・マコン』
衣装:コリーン・エイトウッド『SAYURI』『ワイアット・アープ』

【キャスト】
ヴィンセント:イーサン・ホーク『トレーニング・デイ』『リアリティ・バイツ』
アイリーン:ユマ・サーマンパルプ・フィクション』『バロン』
ヒューゴ:アラン・アーキン『リトル・ミスサンシャイン』『アメリカ上陸作戦』
ジェロームジュード・ロウリプリー』『コールド・マウンテン』
アントン:ローレン・ディーン『キルトに綴る愛』『アポロ13
ジョセフ:ゴア・ヴィダル『きっと忘れない』『インサイド・ディープ・スロート

【あらすじ】
受精卵を選別し、優秀な遺伝子を持った子供を作るのが一般化した近未来。
社会では遺伝子操作により問題ある部分があらかじめ削除された子供は「適正者」、そうでない子供は「不適正者」と判断され差別される。
両親の方針でセックスを伴う自然な方法で生まれてきた子供ヴィンセントは、生まれてすぐの検査で、様々な病気の資質を抱え、寿命が30年ほどしかないと診断される。
両親の意向で次男アントンは遺伝子操作によって生まれてきた「適応者」だった。
ずっと弟に何をやっても勝てなかったヴィンセント。しかし16歳の時に命をかけて対決した遠泳で勝利し「不可能はない」という信念を持つようになる。
不適合者として差別されてきた社会からの逃避の意味もあって、子供の頃から宇宙飛行士に憧れていたヴィンセントであったが、宇宙センター「ガタカ」への入社試験にことごとく失敗する。しかし夢を諦めないヴィンセントは「適応者」になりすますことができるある組織の存在を知り、コンタクトを取る。
待っていたのは、優秀な遺伝子を持つ水泳の銀メダリスト・ジェローム。しかし彼は事故で車いす生活を強いられ、水泳選手としての将来は閉ざされた男だった。
ヴィンセントは己の夢をかなえるために、自分を捨て「ジェロームになる」ことになる。


【感想】(ネタばれを含みます)
心が凍るほど美しい映画でありながら、その話の意味は深い。
この映画は実に多くのことを、今に生きる人々に考えさせてくれる。
人間にとっての病気、肉体的虚弱などの欠点は本当に欠点などだろうか?
もし遺伝子操作が進んだ場合、自分の遺伝子はどのような評価を受けるのか?
そもそも自分のような存在は世に生まれてこないのではないだろうか?
選ばれた人間だけの社会は社会として成り立つのだろうか?
夢を持つことは一握りの人々の特権なのだろうか? などなど・・・

本作では生まれる前に、自分が持つ「負の要因」が特定され、それを削除された完全なる人間が生まれてくる世界。一方で自然な出産をした場合「不適合者」のレッテルを貼られ
ヴィンセントのようにさまざまな差別、隔離を受け生きていかなければならない。
だが、ヴィンセントにはその悔しさや己の存在意義を希求したが故の「夢をかなえる」為の強烈な熱意、努力する意思がある。
一方、完全な遺伝子を持って生まれてきたジェロームは、エリートであるがゆえの「何事も完璧でなければいけないという重圧」から自殺未遂を図り、その未来に蓋を閉じてしまう。同様にライバルでもあったアイリーンも、持病を自分が先に進めない納得する理由にあて、夢を諦めてしまう。
一番劣等なはずであるヴィンセントが、最終的には己の夢を掴むのである。
ここから導き出された結末はとても意味のあるものである。
よく書かれた脚本である。

監督を頂点に作りだす近未来の世界に、俳優達が非常に馴染んでいる。
表面ではエリートを演じながらも、もう一人の「不適合者」を内在させる男をイーサン・ホークが初心でアンバランスなぎりぎりの線で演じ、
選ばれし者でありながらもその階段を転げ落ちてしまった男をジュード・ロウが気高く美しくそして哀しく演じている。

またオープニングのテロップの出し方を筆頭に、朝焼けの海を背景に全裸で体を洗うシーンなど、想像力溢れる美しい映像美もこの映画の見所である。
そして音楽。マイケル・ナイマンが奏でる旋律はシーンに多くの感情を与えている。


【総評】☆26STARS☆ (各項目5点満点で計30点)
脚本★★★★
演出★★★★
役者★★★★
撮影★★★★
美術★★★★★
音楽★★★★★
「映画が好きです。」