4『壁の中の妖精』ソン・ジェンチェク演出 池袋・あうるすぽっと

池袋あうるすぽっとの日韓演劇フェスティバル演目の一つ。
スペイン内戦時にあった実話を元にした福田善之作、春風ひとみ主演で日本でも300回近いロングラン公演されている作品をソン・ジェンチェクらによって、韓国版として書き換えたもの。
である。

【あらすじ】
第二次世界大戦期の日本支配時の韓国。ある少女は「独身女性は日本兵に連れていかれる」からと、若くしてお見合い結婚をする。初めは相手になかなか愛情を持てず、友人のような付き合いをしながら時間をかけて距離を縮めていく。
ある時悲劇が訪れる。
夫が父の遺産を自身の信念から、貧しい人に分け与えたというだけで共産主義だと疑われ、連行される。
数年後、世の中は朝鮮戦争に突入し「赤狩り」の風が吹き荒れる中、夫は脱走し家に帰ってくる。しかし他人に知れたら夫や家族は投獄されるとあって、家の壁の隙間に穴を掘って昼間は身を隠すことになった夫。ちょうどその頃、2人の間には子供が宿った。
昼間は妻が外で商いをし、夫は家で機織りをして家計を助けるという生活が始まる。
時が流れ、2人の間に生まれた女の子もすくすくと育っていく。父がいない彼女であったが、
その代わりに壁の間に住んでいる「素敵な妖精」がいろんなことを教えてくれるのであった・・・。

【感想】
いつも思うのだが舞台には無限の可能性がある。
この舞台にも目の前に存在しない見えないものが、しっかりと見えてくる。
母、娘、その娘、そして夫など計26役を韓国の舞台女優キム・ソンニが一人でこなすので、当然、観客の視点は1人しかいない女優のみにそそがれる。
彼らは腹を空かした餌を求める雛鳥のように、上質な物語や感動を2時間に渡って彼女に求める訳だが、それに充分に応えきっている彼女の演技力はさすがである。

多くの困難を共にし時間をかけて育んでいく夫婦の愛情、
何もしてやれない娘への父のやりきれない想い、そんな不憫な父を一途に慕う娘のけなげな気持ちなど・・・
北と南という時代を吹き荒れたイデオロギーに人生を翻弄されながらも、話の主軸は家族愛からぶれていないので非常にシンプルな構成で分かりやすく観やすい。



また途中にたくさんの歌が挿入されているので、ミュージカルといっても過言ではないかも知れない。その楽曲が静かで心地よいあたりも「アジア的な」作品に仕上がっているといえる。

夫が亡くなる前、神父が彼に「神の愛を信じなさい」と言う。
対して無神論者である彼は「人の中にある愛が、神の愛だ。」と語る。
その台詞が心に残った。

日本語字幕の韓国語の芝居なので見慣れない部分もあったが、とても満足できる舞台であった。