26『日本の自転車泥棒』 高橋忠和監督 2008


出演: 杉本哲太, 藤田弓子, 高野志穂, 伊藤久美子, 原田知世
監督: 高橋忠和

<記事投稿者 ショーン=アイマックス
フランスの象徴主義画家、ポール・ゴーギャンが書いた有名な絵に
「我々はどこから来たのか,我々は何者か,我々はどこへ行くのか (D'ou venons-nous? Que Sommes-nous? Ou allons-nous?)」
という作品がある。
生から死までをひとつのフレームに描ききるという大作を遺した後、彼は自らこの世を去っていった。

旅には必ず「終わり」がある。でもそれはとりあえずの終わりであって、旅を通して僕らはもうその旅を経験する前の自分に戻ることはできない。
使ってしまった時間は取り戻せないし、見てしまった風景は、たとえ忘れたとしても心のどこかに沈殿し、何かの作用を与え続けることとなる。

かつて僕が自転車で山梨県から伊豆半島を巡って、静岡県浜松まで自転車で走ると言ったとき、チュースキー氏が来るまで併走しその様子をひたすらカメラで追った、という出来事がかつてあった。
僕はキャンプ用具などを車に積んで走ってくれるのなら、こんなにありがたいことはない。その旅は僕が誘ったのか、彼が企画してくれたのか、そんなことは今となってはどちらでもいいが、とにかくあの二日間、僕は自転車で走り、彼はカメラでそれを追った。
フィルムはその後長い時間かけて、一本の作品に煮詰まって行ったようだが、実は僕はまだその作品を見ていない。
ただ延々と撮りためた生フィルムを、もうずいぶん前に見た限りで、その記憶もあいまいになりつつある。
そんな時この作品に出会った。

日本の自転車泥棒
http://www.jitensyadorobou.jp/
ストーリーは釜石に住む、ある工夫(だったのだろう)が、その日から自転車を盗んで南を目指した7日間の記録だった。
不況で工場を追いやられた男は、カンカンカンと鳴り響く工場の鐘の音から逃げるように、おびえるように南を目指す旅に出る。
社会から追いやられたある一人の男。
遠野、北上、古川……。行く先々で、旅は男が望もうと望まざるともそれなりのストーリーを与えてゆく。
映画が始まってもうどれくらいたつのか分からないが、いまだ主人公から声は発せられない。ただただひたすら自転車を漕いでゆく映像が流れてゆく。
男は、白川、那須、宇都宮と走り、最後は池袋に達する。

そして、不思議なことに僕もまたあの旅の後、あちこちをさまよった後、東京に住んでいる。チュースキー氏も東京に住んでいる。
あの旅を終えて、どこかにたどり着いたのかまるで分からない。
けれどもこの映画は僕たちにそれでも「漕ぎなさいよ、思いっきり」と語りかけてくる。
今度、チュースキー氏の作品を見たら、またここに追加してその感想を書こう、と思う。

【この映画の傾向】
旅・青春★★★★★
人間・人生★★★★
愛・恋★
史実・ドキュメンタリー★
エンターテインメント★★