82『デビル(THE DEVIL'S OWN)』(1997・アメリカ)


【スタッフ】
監督:アラン・J・パクラ『大統領の陰謀
脚本:ケヴィン・ジャール 『グローリー』
   ロバート・マーク・ケイメン『トランスポーター』
撮影:ゴードン・ウィリスゴッドファーザー
音楽:ジェームズ・ホーナータイタニック

【キャスト】
フランキー:ハリソン・フォード『逃亡者』
トム:ブラッド・ピッド『12monkeys』
シーラ:マーガレット・コリン『インデペンデンス・デイ
エドウィンルーベン・ブラデスレジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード
ビリー:トリート・ウィリアムズワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ



【感想】(ネタばれを含みます)

一度生まれた悲しみの連鎖は消えることなく、いたずらに涙を求め続ける・・・

10年前に観た時は己の幼稚さ故にこの作品を「駄作」と片付けていたが、
改めて見るとその完成度の高さに非常に驚く。

公開当時「2大スター競演」という触れ込みで番宣を売っていたので、
「わかりやすいエンターテイメント作品」としてスクリーンに輝くスター目当てに
劇場に足を運んだ人は裏切られた気持ちで一杯だっただろう。

IRAを主題に据えた時点である程度の世界情勢を読み解く教養は求められる。
ここに存在する深い深い悲しみが主題なのだ。
クロムウェルアイルランド侵略以降、約400年以上に渡る因縁の延長上に、
この作品の舞台がある。
ここに描かれる人物たちの心理描写が絶妙だ。

この歴史を背負った世界の中を生きる青年フランキーは
否応なく負のスパイラルに巻き込まれた男だ。
幼くして殺された父親の復讐の為、自分たちの権利・幸福の為、
そして戦いの中で失った同士の為に、延々と敵を殺し続けてきた。
まさに戦いこそが人生であった。

戦いに明け暮れてきた「コンビーフすら食べたことのない」ような男が、
トムの自宅で暮らすことで「普通の温かい家庭が持つ幸福感」を肌で感じ、
家族の存在を大切に思い、またトムを亡き父親のように慕い始める・・・

幸福な時間が己への「復讐」によって奪われ、トムに自分の素姓がばれてしまった時の
ブラッド・ピットの演技を是非見てほしい。
父に許しを乞うような子供の顔と、心より済まないという贖罪の念と、
この時間を奪った己の運命を呪う気持ちが同居している、純粋で複雑な表情を見せてくれる。

その後、彼が涙を拭う仕草。対するハリソンフォードの、「警官という顔」を絶対に歪ませない強い意志と、家族が襲われた怒りを静かに匂わす表情・・・

この作品の中での2人の演技は派手も華麗さもない。それが狙いなのだ。
いつも揺れ動き、悩み、悲しみにくれる、運命から逃れられない、そんな小さな小さな人物を、
懸命に丁寧に誇りを持って演じているのが静かに伝わってくる。

それを支える撮影も、対象物との距離感やライティングも絶妙であり安心して見ていられる。
脚本もいいし、音楽もいい。

残念なのは、やはり最後のシーン。
撃ち合った後の2人がどちら目線で語られているのがが定まら無い為、観客は感情が乗せにくく、
加えてハリソンの最後のセリフのタイミングが明らかに早すぎる為に、
余韻に浸り物語を整理することができず、話が終わってしまう。

一般受けしない玄人好みの映画であるかも知れないが、
時を経て不純物が剥がれ純粋に作品と向かいあうことによって、
見えてくる良さというものもあるものだ。


【総評】☆22STARS☆ (各項目5点満点で計30点)
脚本★★★
演出★★★★
役者★★★★
撮影★★★★
美術★★★
音楽★★★★

事故で亡くなり、これが遺作となったアラン・J・パクラ監督へ
感謝の念と心からのご冥福をお祈りします。